ダンボールのコースからはじまった遅四グランプリ
ーそもそも、どうして『遅』について考え始めたのでしょうか。きっかけみたいなものはあったんでしょうか?
島本さん:きっかけはバーベキューですね。もともと遅四は僕と三原さんと吉田山さんの3人で始めた遊びでした。
新型コロナウイルスが流行した頃に、僕が『ベランダの広さが室内の2倍ある』っていう少し変わった物件に住んでいたんです。しかもベランダがビルの屋上だったので“3密”にならないで遊べるってことで、そこで一時期狂ったようにバーベキューをやっていました(笑)。
また、当時はミニ四駆の作品を作っていたので、その展示方法を考えていました。実際のコースを走らせるのがいいなと考えていたのですが、その時に『いろんな人の遅いミニ四駆を集めて走らせたら面白いんじゃないか?』と思いついたんです。だけど僕の腰が重すぎて実現はしていなかったので、三原さんと吉田山さんに『ちょっとどうですか?やりませんか?』って話をしたら『バーベキューもできるし良いじゃん!』って快諾してもらえて。それで開催されたのが第1回遅四グランプリです。
三原さん:第1回は結構内輪ノリで『ダンボールでコース作れるかな~?』ぐらいの緩さでした。集まった人でダンボールとガムテープで手作りコースを作って、マシンを走らせては『おせ~!』って笑いながらミニ四駆を眺めていました。まあ、まだその時は今と比べれば全然“速”かったんですけど(笑)。重りをつけて遅くしたりと工夫をしてみたんですが、それだと逆に止まっちゃうんですよね。そのギリギリのラインを探りながら、酒を飲んで、笑って、肉食べてっていう感じでした。基本的に飲み会の余興っていうのがはじまりです。
※3密…新型コロナウイルスの集団発生防止のために避けた方が良いとされたもの。密閉空間、密集場所、密接場面の3つを指す。
ー友達との遊びがスタートだったんですね。2回目大会は会場での開催だったのでしょうか?
島本さん:はい。一緒にやっていた吉田山さんが展覧会の企画などもやっているのですが、その関係でアーティストのやんツーさんに遅四の話をしたら面白がってくれて、少ししたらすごい遅いマシンの動画が送られてきて、第一回遅四グランプリのメンバーを震え上がらせました。
その後やんツーさん自身の作品にも遅四駆を取り入れてくれて。
「展覧会の中でのイベントとして次の大会をやりませんか?」と声をかけてくださり、第2回目を開催することになりました。
三原さん:やんツーさんが第2回大会で革命的に遅いミニ四駆を作ってきたんです(笑)。彼の特徴は、見た目は完全にミニ四駆のまま、走るスピードだけ遅くするっていうスタイルなんですよ。
ー今までの大会にはさまざまな見た目のミニ四駆が出ていますよね。
島本さん:ミニ四駆のマシンに各参加者のポリシーというか、美学が出てくるんですよね。『とにかく遅けりゃなんでもいい!』みたいな人もいるし、シュッとしたデザイン、それこそタミヤのパーツだけにこだわって構成したりとか、ぬいぐるみを使って可愛い要素を盛り込んだり…マシンを通してその人の人間性が見えてきたりもします。それぞれの個性も出て面白いかも、という思いが大会を企画した当初からあったので、今はそれに近づいてきていて嬉しいです。
▲今まで大会の様子
ーなるほど、その違いを見るのも楽しいですね。これまでの大会はレースコースが直線ではなく円周の時もあったようですが…遅いと曲がりきれるものなのでしょうか。
三原さん:実はそこが結構重要で、重りをつけていた頃はカーブで止まっちゃってたんです。あとレーンチェンジがあるんですが、そこが坂なんですよね。だから、初期は坂の部分で止まってしまうマシンが続出してしまって…。やっぱりゴールはしてもらいたいなって思いがあったので第3回大会は長い直線のコースでやりました。
ー遅いながらも走るっていうのは技術がいるんですね。
三原さん:そうなんです。でも3回目の大会にもなると参加者の『遅』も極まってきていて、そんなに長いコースがいらないってことがわかってきました。遅すぎて時間内にゴールしない人が続出したんです(笑)。
ー『遅』の研究が進んだんですね(笑)。それでは進んだ距離で順位をきめるんですか?
島本さん:実は偶然参加者の中に数学者の方がいらっしゃったので、タイムを計算して欲しいってお願いしたんです。できれば筆算で(笑)。マシンごとに進んだ距離とタイムを計っていたので、『このマシンはこの距離をこの時間で進みました』っていうのを計算で出してもらって一位のマシンを調べています。この次の大会から現在のかなりコンパクトなコースになりました。
ーそれで現在は30センチくらいのコースなんですね。これでどれくらい時間かかるんでしょうか?
島本さん:前回大会の時は30センチの距離を1時間かけて走りました。ぬいぐるみをマシンに搭載した女性が優勝されたんですが、屈強な男たちをなぎ倒して女性レーサーが1位を取るという、性別関係なく楽しめる競技だっていう証明にもなりました。
ー女性も参加されているんですね!工学やプログラミングの知識がない人でもマシンの制作はできるものなのでしょうか。
島本さん:たしかに参加者のなかには電子工学などができる人もいますが、中にはミニ四駆を2台ぶつけ合わせて進みを遅くさせたりだとか、恐竜の電池仕掛けのおもちゃでマシンを引っ張って遅くしたりっていうアイデア勝負の人もいます。専門知識がなくてもスピードを相殺する系で勝負する人が結構いますね。
三原さん:あと今度やろうと思っているのは、一回集合したあとに一斉にマシンに使えそうなパーツを探しに解散して、制限時間内にマシンを作るっていう企画ですね。そのマシンをレースで競争させる。そうすると、知識がある人が必ず優勝するってこともなくなってくる。
島本さん:これは第1回大会に戻るような形で、みんなで楽しくお酒を飲むような雰囲気でやれたらいいなと思っています。『良い酒のアテ賞』っていうのも設けて、マシンが完成しちゃって時間が余ってる人や、アイデアが出なくて困った人なんかはそっちも狙ってもらってっていう感じにしても面白いかなと(笑)。
▲取材時点で一番遅いミニ四駆マシン。4時間で3mm進む。
『あえて遅い』をもっと意識して活用できる社会に
ーイベントの核にもなっている『遅イズム』とはいったい何なのでしょうか?
島本さん:三原さんが最初言い始めた言葉ですね。私が考えてる話でいうと、日本というのはどんどん人口が減っていくわけじゃないですか。だからいろんなことを効率的にやらなきゃいけない。
基本的に社会は色々な物事を“速く”することで効率を良くしようとします。でも『速いことで効率が悪くなっていること』もあると思うんです。なのでその無駄な部分を削ることを考えないと、システムが回らなくなる時が絶対くるなと。ならいっそ『回さなくても良い』っていう考えを提示できたら、むしろチャンスなんじゃないかなと思っています。立ち行かなくなったから仕方なく…ということではなく、時代を先駆ける考え方として『あえて遅い』はありなんじゃないかなと。
三原さん:本来“速い”というのは別に目的じゃなくて手段なわけですよね。もともとは『効率よくやりたいから速くやる』という流れのはずだったのに、いつの間にか『速い』=『効率がいい』と結びついてしまっていて。実際には効率の良さを求めるなかの手段の一つでしかないはずなんです。
だから、自分は何を求めているかということと、目的達成のためにどれぐらいの速さが必要かということを自分で意識して選ぶことが大事なんです。
ーなるほど、選択肢の一つに『遅』もあるということですね。
島本さん:はい。いろんな人に『遅』を選択する・楽しむっていう考えが広がっていってほしいと思っています。最初はミニ四駆で始まり、アートやプレゼンと今はクリエイティブな分野が多いですが、むしろクリエイティブ以外の世界の人たちの『遅』も知っていきたい。いろんな職業、趣味の人たちのスタイルの中に『遅』を代入してみて、それが「どうなりましたか?」「どうなると思います?」っていう話をたくさんしたいです。
三原さん:僕ら以外にも勝手にやってほしいよね(笑)。
島本さん:そうだね、勝手にやってくれる人が増えてくれると嬉しい。別に『遅』は僕らだけのものじゃないし、むしろミニ四駆はタミヤさんのものを勝手に使わせていただいているので…(笑)。
少し未来の話をすると、『遅イズム』がもう少し広がった時に『なんでミニ四駆がメインなんだっけ?そういえば昔は遅いミニ四駆を戦わせてたね』ぐらいになっていると良いな。それぐらい『遅』自体が面白いっていうのが、色々な分野に広まっていくと嬉しいです。
ーありがとうございました!
▲ 右:遅四グランプリ実行委員会 会長 島本了多さん
左:遅四グランプリ実行委員会 副会長 三原回さん
まとめ
いかがでしたでしょうか?
“遅”を楽しみながら意識することで自分の中の選択肢を増やす…“遅イズム”とは『最も効率的な速さを自分で選ぶ』という考え方のことでした!
「速い」=「最も効率が良い」という固定概念を捨てるというのは目から鱗で、自分で考え、選ぶことが大事なんだなと実感する貴重な時間となりました。
イベント自体も“遅”を楽しむ工夫が盛りだくさんでとても面白かったです!
ご興味がある方はぜひ次回イベントをチェックしてみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました!