運営スタッフが行く!足立区体験レポート vol.5【家劇場の一周忌「おわりの遊園」】
2024年10月31日
こんにちは!あだちる運営スタッフです。今回は『運営スタッフが行く!足立区体験レポート vol.5』をお届けします。
第5弾としてご紹介するのは2024年9月27日~29日に北千住で開催された、【家劇場の一周忌「おわりの遊園」】というイベント。
解体から1周忌を迎えた家劇場を中心に、さまざまな『残し方』について考える、公演あり、展示あり、ワークショップありの複合型イベントです。
【形がなくなっても、そこに残るもの】 家劇場の一周忌「おわりの遊園」北千住で開催!
一体どんなイベントだったのでしょうか?さっそくご紹介します!
【展示①】新しい役割を付加して『残す』
本イベントは2つの会場で開催されており、その1つが仲町の家。
大切に継承されてきた日本家屋と緑ゆたかな庭園の美しさを堪能できる場所です。
▲仲町の家(Photo by 奥村健介)
こちらでは主に展示、ワークショップ、カフェなど、主体的に楽しめるコンテンツがメインで開催されていました。
仲町の家会場 開催プログラム
- ・場づくり((仮称)コーミンカン!馬渕かなみ 大橋麻紀/日本大学理工学部建築学科 佐藤慎也研究室)
- ・Food&Drink「台湾喫茶を味わう」(週末オノンノ倶楽部)
- ・Workshop(綴方書窓)
- ・Movie「家劇場むかしばなし」(綴方書窓)
なかでも「場づくり」と称された企画がとても面白いもので、北千住にある(あった)スペースに対して「劇場外の演劇」、「コンバージョンされた劇場」、「アートプロジェクトの拠点」、「場づくり」といったテーマの研究を発表するというもの。日本大学理工学部建築学科 佐藤慎也研究室の卒業生と現役生による意見交換会を間近で見ることができます。研究発表といっても堅苦しいものではなく、本イベント会場を訪れた人に興味をもってもらえるようにと、わかりやすい表現を用いて進められていたのが印象的でした。
建物の修繕を意味する言葉として『リノベーション』が馴染み深いですが、これは同じ目的で再利用する場合に用いられる言葉だそうです。居住用の家を改修し、キレイにしてまた住めるようにするというのは私たちにも想像しやすいですよね。
対して『コンバージョン』という言葉が存在し、これは『目的・用途を変更して再利用する』ことを指すのだそうです。例えば、本イベント会場になっている仲町の家も元は居住用の建物ですが、現在は文化財として歴史を伝えながら、新しいアートコミュニティの場として提供されています。
こういった古くなってしまったモノを取り去るのではなく、新しい役割を与えることで残すというのは素敵な考え方ですし、何より未来へのワクワク感があると思いました。大量生産・大量消費と呼ばれる時代ですが、そんな中で「1つのモノを繋いでいくことの楽しさ」に気づかされた時間でした。
▲佐藤慎也研究室の卒業生と現役生、イベントに訪れた方による意見交換会
▲Movie「家劇場むかしばなし」
庭園の緑を眺めながら、家劇場にまつわる語りを見ることができる。
▲Food&Drink「台湾喫茶を味わう」
一周忌のイメージした白黒ゼリー。杏仁豆腐の甘さと仙草ゼリーのさっぱり感が好相性!
▲Workshop「シルクスクリーンを用いたデザインバック作り」
北千住の町の形をした版や家劇場のロゴを組み合わせて自分だけのオリジナルバッグを作成できる。
▲会場には建築や設計にまつわる書籍も置かれており、来場者は自由に手に取ることができる。
【展示②】新しいカタチにして『残す』
もう1つの会場となっているのはBUoY(ブイ)。こちらも2階は元ボウリング場、地下は元銭湯だった建物を『コンバージョン』し、カフェを含めたアートセンターとして活用されている場所です。
こちらの会場では本イベントの核でもある家劇場の間取りを再現しつつ、その中に展示を取り入れた作りとなっていました。
▲会場に入ってまず目に飛び込んでくる居間を再現したスペース。舞台のメインステージにもなる。
▲客間と呼ばれていた観劇席(手前)と庭に見立てられた展示スペース(奥)
▲会場の間取図。実際の家劇場には存在しなかった風呂なども、イベント企画者である緒方さんの見立てによりBUoYの施設を活かして増築再現された。
BUoY会場では6組の作家による家・暮らし・記憶・千住に紐づく作品の展示が行われており、取材当日はその中のお一人である浅野ひかりさんにお話しを聞くことができました。
浅野さんは東京芸術大学出身の美術作家で、主に和室を構成するものに着目し作品づくりを行なっているとのこと。
今回の展示では『丸い地球の模様替え』というタイトルで複数の作品を展示しており、どれも見ている側が触って動かせるというのが印象的でした。
▲『宙に浮くこたつと丸畳』/浅野ひかり
ハンドルを回すことでこたつ部分が回転する(操作しているのは作者ご本人)
この「宙に浮くこたつと丸畳」をはじめ、畳や建具などはそれぞれのメーカーと直接交渉し共同制作の依頼をしているそうです。作品を作っていく中で和室が必要不可欠ではなくなってしまった現状を受け、素材として新しいカタチに活かしていけないか試行錯誤している、と話してくれました。
たしかに既製品として世の中にあるものは用途が限定されがちですよね。だからこそ広い視野を持ってもう一度そのモノを見直すことが『残し方』のアイデアを見つける第一歩なのかもしれません。
▲奥村健介さんと映像作品「1010/365」(Photo by 奥村健介)
▲阿部修一郎さんと映像作品「Hear the Place Sing」「same things」(Photo by 奥村健介)
▲植村真さん「家の聲を聴く/calls」(Photo by 奥村健介)
▲森尾他拓人さん×演劇空間ロッカクナット feat.金光佑実「naraka -家劇場ver.-」(Photo by 奥村健介)
▲金光佑実さん「家劇場の音家具」(Photo by 奥村健介)
▲イベントの出演者・出展者たち(Photo by 奥村健介)
【公演】繰り返すことで『残す』
そして本イベントのメインでもある『日めくりダンス公演「家と暮らせば」移築ver.(振付演出:中村蓉)』がスタート。
イベントの企画を手がける緒方彩乃さんが主演を務め、再現された家劇場の間取りを舞台に、ストーリーと共にさまざまな感情を表現していきます。
舞台道具には実際に家劇場にあった建具や階段、家具などが使われ、昔からのファンにも嬉しい要素がふんだんに盛り込まれていました。
Photo by 金子愛帆
Photo by 奥村健介
▲共演のアラキミユさん(Photo by 奥村健介)
▲1日限りの特別回に出演の中村蓉さん(Photo by 金子愛帆)
Photo by 金子愛帆
公演後に緒方さんにお話しを聞いたところ、ご本人はクラシックバレエのご出身だそうで、バレエの『古典作品を繰り返し上演して魅力を継承する』というスタイルがお好きなんだそうです。家劇場に関しても、同じ作品をアップデートしながらも、繰り返すことで感じられる変化や良さなど、さまざまな魅力を伝えていきたいと話してくれました。
『後ろ(過去)向きにですが、全力で前に向かって走ります!』と元気な笑顔で家劇場プロジェクトへの意気込みを語ってくれた緒方さん。3回忌には『アーカイブ』として新たな発信があるそうです。ご興味のある方はぜひ続報をお待ちください!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回このイベントを通して感じたのは、過去のモノやコトにフォーカスしているのに、そのこと自体が『未来』へのアクションになっているな、ということです。
『残す』ということは「昔にこだわっている」など、使い方によってはネガティブな意味をはらみやすいと思います。ですが今回のイベントではそういった雰囲気は感じられず、むしろ新規の人も巻き込んで『楽しみながら継承していく』といったメッセージを強く感じました。
さまざまなコンテンツで溢れ、移り変わりの速い現代ですが、好きなモノを『残す』ことにも目を向けていきたいですね!
最後までお読みいただきありがとうございました!
[ テキスト/写真 ]
[写真]奥村健介さん/金子愛帆さん
[文章・写真]あだちる運営スタッフ