運営スタッフが行く!足立区体験レポート vol.6【TRiP第5回『雪』】
2024年12月19日
こんにちは!あだちる運営スタッフです。今回は『運営スタッフが行く!足立区体験レポート vol.6』をお届けします。
第6弾としてご紹介するのは2024年11月16日に北千住で開催された「TRiP第5回『雪』」。
落語と浮世絵、江戸時代生まれの2つのアートに触れることで、まさに当時にトリップしたような没入感を楽しめるイベントです。
『TRiP』とは
柳家あお馬、渡邉晃、本屋しゃんの3人が作る「落語と浮世絵が出会う落語会」です。それぞれ活動するフィールドは違いますが、3人が「落語と浮世絵」の架け橋となり、ジャンルを越えて、落語と浮世絵を横断することで、もっと双方を楽しんでほしい!そして、落語と浮世絵の魅力を広げたい!という想いのもとチームを結成しました。
毎回ひとつテーマを決めて、柳家あお馬は落語で、渡邉晃は浮世絵噺で応え、落語と浮世絵をたっぷりとお楽しみいただきます。
※イベントプレスリリースより一部抜粋
今回のお題は『雪』とのこと。一体どんな雪景色が落語と浮世絵で表現されるのでしょうか?
早速ご紹介します!
大人な魅力たっぷりの開演待ち時間
今回の会場は北千住駅から徒歩7分ほどにある『仲町の家』です。あだちるのスタッフ体験レポートにも3回目の登場となりますが、夜に訪れるのは実は今回が初めて。ライトアップされた庭園はしっとりとした美しさがあり、お昼とはまた違った魅力があります。
▲仲町の家 外観。室内からは暖かな灯りが溢れます。
入口には今回初お披露目となったTRiPオリジナルの地口行燈も飾られており、夜公演の特別感をより一層引き立てていました。
▲地口行燈(じぐちあんどん)とは、地口と呼ばれる言葉あそびに絵が添えられた行燈のこと。千住では江戸時代から神社や民家に飾られており、現在でも商店街の店先などを彩っています。
▲玄関に飾られているめくり。TRiPのメインビジュアルや落語家・柳家あお馬さんがパッケージのイラストを手がけるコーヒーの販売もあります。
▲色合いが美しいステンドグラスの照明。穏やかな夜の日本家屋にとても似合います。
会場に入ると客席の横に電子キーボードが設置してあり、今回浮世絵の解説を担当する渡邉晃さんがジャズピアノを弾きながらお出迎え。縁側からライトアップされた庭園を眺めなつつ軽快なリズムに耳を傾ける時間は、なんともゆったりと贅沢な時間でした。
『雪』は昔も今も話のタネ
ジャズの心地良いリズムを楽しんでいるとあっという間に開演時間になり、落語家の柳家あお馬さんと企画の本屋しゃんのお2人が登場。今回のテーマである『雪』に触れつつオープニングトークが進みます。
新潟出身の本屋しゃんは昔から雪に馴染みが深く、学生時代はスキーウェアで登校していたとか…!足立区は雪が降ること自体が珍しいので見かけたことはありませんが、雪国ではあるあるなのでしょうか?(笑)
そんな雪国トークで会場も盛り上がってきたところで1つ目の落語演目『雑俳』のスタートです。
雑俳(ざっぱい)
隠居のもとに遊びに来た八っつぁんは町内で『隠居は働きもしないのに柔らかい服を着て良い物を食べているから、もしかして泥棒なのではないか』と噂になっていることを話す。それを聞いた隠居は否定するが、八っつぁんは「じゃあなんでそんな良い暮らしができるんだ」と質問する。すると隠居は「分米を貰って暮らしている」と説明した。納得しつつも「じゃあ毎日退屈でしょうがないでしょう」と言う八っつぁんに隠居は「和歌俳諧が趣味だからそんなことはない」と話す。話を聞いて俳諧に興味に持った八っつぁんは隠居の手解きを受けながら句を詠んでみることに。季語の『雪』を入れて句を作ろうと奮闘するが…。
自由奔放な八っつぁんと、それに振り回される隠居の掛け合いが楽しいこの演目。あお馬さんのキャラクターの演じ分けが素晴らしく、本当に2人がそこにいるかのように錯覚してしまうほどでした!
噺の途中には現代用語も混ざっていたのでこの演目は比較的新しい作品なのかと思っていたのですが、公演後あお馬さんにお話しを聞いたところ、現代の人にも伝わりやすいように少しずつ表現をアップデートしているんだとか。
『目の前の人に楽しんでもらえるのが大前提だから』と笑顔で話すあお馬さん。伝統芸能でありながらもいつもその時代に馴染む柔らかさが、今も落語が愛される理由なのかもしれません。
時代を越える『絵を楽しむ』という文化
次の浮世絵伽ではモニターを使用するため、ここでステージは少し舞台転換。その間、今度は電子キーボードにあお馬さんが座り、童謡『ゆき』を披露。幕間も余すことなく楽しませてくれます。
▲「雪やこんこ 霰やこんこ〜」でお馴染みの童謡『ゆき』を弾くあお馬さん。思わずこちらも歌詞を口ずさんでしまいます。
そんなこんなであっという間に舞台転換が終わり、次は太田記念美術館の上席学芸員である渡邉晃さんによる浮世絵噺のスタート。
浮世絵の基礎知識からはじまり、テーマの『雪』を取り扱った作品の数々を、渡邉さんならではの視点で読み解いていきます。
浮世絵というと「美術品」の側面が強く、なんだかお堅いイメージがありますが元々は大衆娯楽の1つ。人気のある役者さんと地域をコラボさせてみたり、実際にはない風景を描いたものがあったりと、現代にも通じるような楽しみ方がたくさんあったそうです。なんだかSNSで好きな絵を楽しむ今の私たちとあまり変わらないですね(笑)
渡邉さんのユーモアたっぷりの解説は時折会場に笑いの渦を巻き起こし大盛況。当時の人々が着目したポイントを絵ごとに拾ってくださるので、浮世絵の知識がない筆者もどこを見たら良いのかがとてもわかりやすかったです。解説が終わる頃には江戸時代の人々の目線と近いところで浮世絵を見れているような気がして嬉しくなりました。
▲歌川芳員の作品「東海道五十三次内 大磯」にでてくる虎子石のぬいぐるみ。こんなゆる〜いキャラクターも登場したりするんですね。
▲虎小石ぬいぐるみの後ろ姿。石に虎の足と尻尾がついています。
2025年には江戸時代に版元として数々のヒットを飛ばした蔦屋重三郎が題材の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』がスタートするとあって、今は空前の浮世絵ブーム。多くの美術館などで企画・展示が行われると思いますので、ご興味のある方はぜひ足を運んでみてくださいね。
同じ『雪』でもまったく違う景色に
浮世絵噺が終わり、最後の舞台転換。お次は本屋しゃんがキーボードの前に座り、『カントリーロード』を披露します。優しい音色が静まり返った庭園と相まって穏やかな時間が流れました。
舞台転換と休憩が終わり、本日最後の落語演目『夢金』のスタートです。
夢金(ゆめきん)
常に金のことばかり考えている船頭の熊蔵。今日も船宿の二階で「百両欲しい〜」などと欲深い寝言を言っている始末。そこへ「深川まで屋根船を出して欲しい」と一癖ありそうな侍と良いとこのお嬢さん風な娘が訪ねてきた。芝居見物の帰りに雪に降られてしまい帰るのに困っているという。「船頭が出払ってしまっている」と船宿の親父は侍の依頼を断るが、二階から熊蔵の寝言が聞こえてしまい「どうしても頼めないか」と侍に食い下がられる。親父は仕方なく熊蔵を起こすが、本人は急に起こされて不機嫌な様子。だが、侍が骨折り酒手を弾むと伝えると飛び起きて準備を始めた。降りしきる大雪の中船を漕ぐ熊蔵だが、なんだか侍と娘の様子がおかしいようで…。
※骨折り酒手…現代でいうところのチップ
雑俳と比べてちょっとシリアスなストーリーですが、熊蔵の明るく人間くさい性格が良い塩梅ですっごく面白かったです!雑俳の八っつぁんもそうでしたが、あお馬さんが演じる面白キャラはただの登場人物で終わらず、「こういう人いるよな〜(笑)」とかなり親近感があるので、演目の終わりには愛着が湧いてしまいます。
また、どちらも雪がでてくる落語ですが、雑俳は歌の題材にしようと愛でる対象であるのに対して、夢金の雪は真冬の厳しい寒さの表現に使われています。同じテーマを聴き比べてこういった違いを見つけられるのもTRiPの醍醐味といえるでしょう。
▲イベント終わりの3人。左から柳家あお馬さん、本屋しゃん、渡邉晃さん。
おわりに
いかがでしたでしょうか?
落語と浮世絵を通して時代を旅する『TRiP』シリーズ第5回。
伝統芸能といっても肩肘を貼らず、もっと楽しんでいいんだ!と思える貴重な体験でした。
単純に「2つのアートを知る」というよりは、当時の人々と同じ目線に立って同じものを見ることで、時代を越えて同じ時間を共有しているような感覚になれるのが面白かったです。まさに江戸時代にトリップしたような没入感がありました!
ご興味のある方はぜひ今後のシリーズもチェックしてみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました!
[ テキスト/写真 ]
[写真]仲町の家 山本さん
[文章・写真]あだちる運営スタッフ