運営スタッフが行く!足立区体験レポート vol.7【TRiP第6回『宿』】
2025年4月21日
こんにちは!あだちる運営スタッフです。今回は『運営スタッフが行く!足立区体験レポート vol.7』をお届けします。
第7弾としてご紹介するのは2025年3月15日に北千住で開催された「落語と浮世絵が出会う落語会ーTRiPー第6回」。江戸生まれの2つのアートをまるで当時にトリップしたかのような没入感で楽しめるイベントです。
『TRiP』とは
柳家あお馬、渡邉晃、本屋しゃんの3人が作る「落語と浮世絵が出会う落語会」です。それぞれ活動するフィールドは違いますが、3人が「落語と浮世絵」の架け橋となり、ジャンルを越えて、落語と浮世絵を横断することで、もっと双方を楽しんでほしい!そして、落語と浮世絵の魅力を広げたい!という想いのもとチームを結成しました。
毎回ひとつテーマを決めて、柳家あお馬は落語で、渡邉晃は浮世絵噺で応え、落語と浮世絵をたっぷりとお楽しみいただきます。
※イベントプレスリリースより一部抜粋
さらに今回は千住宿開宿400年を記念した特別回とのことで、お題はズバリ『宿』!
いったいどんなイベントだったのでしょうか?さっそくご紹介していきます。
仲町の家には小さな春の便り
会場はTRiPではお馴染みの『仲町の家』。北千住駅から徒歩10分ほどにある、日本家屋と庭園が美しい場所です。当日は小雨が降り3月中頃とはいえ少し肌寒い夜でしたが、庭園には梅の花が咲いており春の訪れを感じることができました。
入口にはめくりとTRiPのメインビジュアルが置いてあり、一気に落語会に来た気分になります。なんと『宿』の寄席文字はメンバーである本屋しゃんがお描きになったそうです!
▲会場の入り口
中に入ると恒例となっている渡邉さんのジャズピアノがお出迎え。渡邉さんは学芸員の傍らジャズピアニストとしても活躍されており、本イベントではオープニングアクトと出囃子を演奏されています。TRiPのために書き下ろされた曲もあり、ここでしか体験できない贅沢な『待ち時間』を過ごすことができます。
▲会場の様子とピアノを弾く渡邉さん(写真右側)
そんな優雅な時間を楽しんでいるとあっという間に時間が経ち、いよいよイベントのスタートです。
落語家・柳家あお馬さんと企画・本屋しゃんが登場しオープニングトークが進みます。なかでも今回1番のトピックはやはり千住宿開宿400年のこと。その記念でもあるTRiP第6回は満員御礼、またTRiP史上最大の人数を迎えての公演だそうです!
会場いっぱいの大きな拍手に包まれながら、第一部の落語が始まります。
千住が舞台の落語を、千住で楽しむ
落語家が舞台に上がる際に演奏される出囃子。本来なら三味線など和楽器が用いられる場面ですが、TRiPでは渡邉さんのジャズピアノがあお馬さんの登場に華を添えます。さらにあお馬さんの名前になぞらえて『あお(青 = Blue)』が含まれるタイトルを選曲するというお洒落ぶりです。
高座にあお馬さんが登壇し『藁人形』がはじまります。
藁人形
千住宿の若松屋という女郎屋に、おくまという売れっ子の女郎がいた。おくまは神田の糠屋の娘だったが好いた男と駆け落ち。久しぶりに江戸に帰った時にはすでに両親は亡くなり、実家も崩れてしまっていた。ヤケになり自ら女郎屋に身を沈めることになったが、元々器量の良かったおくまはたちまち人気の女郎になった。
そんなおくまの部屋に通っている乞食坊主の西念。お経を唱え終わった後、おくまが嬉しそうにしているので話を聞くと近々身請けされるとのこと。さらにその旦那が居抜き物件を買ってくれるから絵草紙屋でもはじめようと思っており、その際西念も一緒に引き取ろうと考えていると話した。なんでも死んだ父親に似ているので、親孝行のつもりで世話をしたいとのことだった。
数日後またも部屋を訪ねた西念だが、今度は不機嫌に茶碗酒を煽るおくまを見て声をかける。すると今すぐに後金の20両払えなければ例の居抜き物件の話が無くなってしまうと言う。旦那はしばらく旅にでているし、馴染み客にもそんな大金は借りれない…と嘆くおくま。そんなおくまを見て西念は貯めていた20両を貸すと申し出る。おくまは大変感謝して今晩は泊まっていくことを勧め、西念も提案に乗ることにした。
20両を貸した後しばらく体調を崩していた西念は久しぶりにおくまの元を訪ねる。例の話はどうなったのかと聞いてみるとおくまは「金など借りていない。あの20両はあの晩の宿泊代としてもらったんだよ。」と言いだす…。
千住が舞台の落語はあまり数がなく、『藁人形』はその中の貴重な1つだそうです。千住宿は街道沿いに長く伸びていたため、『藁人形』で登場する場所は千住宿の中でも南方、現在では南千住と呼ばれるエリアなんだとか。
男が女に騙され、その恨みを藁人形に…といったドロドロした怪談噺ですが、なんだか千住らしいと言えば千住らしいかも…?(笑)。そう思ってしまうのは、今でも多く人間が行き交う千住の下町風情が当時の面影とリンクしやすいからかもしれません。
実はレアもの?千住にまつわる浮世絵たち
次の浮世絵噺ではモニターを使うため、しばらくステージは場面転換。この間にもピアノの演奏があり休憩中も観客を楽しませてくれます。
▲ピアノを弾くあお馬さん。ビートルズの名曲『Let It Be』を演奏。
幕間の一時をホッと楽しんだところで場面転換も終了。渡邉さんが登場し浮世絵噺のはじまりです。
「江戸時代を代表する芸術」といった印象が強い浮世絵ですが、当時はなんと、お蕎麦一杯分の値段で浮世絵が買えたそうです。現代でいう漫画や雑誌を買うような感覚で多くの人々に親しまれていたんですね。
まずは落語の『藁人形』になぞらえて鈴木春信の『丑の時参り』を紹介。「可愛らしい見た目の女性が釘と金槌を持っている様子はまた違った怖さがある」と茶目っ気に語り、会場の笑いを誘います。落語を聞いた直後なので描かれた女性の心情も頭に入って来やすく、こういった落語と浮世絵の相互性を体感できるのもTRiPならではの魅力ですね。
そして話題は今回のテーマでもある『宿』に。「江戸四宿」と呼ばれる品川宿、板橋宿、内藤新宿、千住宿を題材にした浮世絵が紹介されていきます。
▲日本橋からはじまる各街道の最初に到着する宿が江戸四宿。
江戸四宿の中でも千住宿が1番人口が多かったようですが、あまり浮世絵の題材にはなっていないそう。この日紹介された作品をおさえれば、千住関連の浮世絵はほとんどコンプリートできる!とのことでした(笑)。それぐらい千住が題材の浮世絵はレアものなんだそうです。
描かれた場所が明確になっている絵もあるそうなので、実際に現地を訪れて当時との違いを観察してみるのも面白いかもしれませんね!
関連リンク:
武州千住 冨嶽三十六景と千住|足立区
この日紹介された千住の浮世絵
・葛飾北斎『冨嶽三十六景 武州千住』
・歌川国貞(三代豊国)/歌川国久『江戸名所百人美女 千住』
・歌川広重『名所江戸八景 千住の大はし』
・歌川広重『日光街道中 二 千住』
・葛飾北斎『冨嶽三十六景 従千住花街眺望ノ不二』
・二代歌川国明『千住大橋吾妻橋洪水落橋之図』
・井上安治『千住ラシャ製造場』
・二代歌川広重『絵本江戸土産 九編「千住河原 豊島川遠景」』
最後に紹介されたのは歌川芳藤の『廓通色々青楼全盛(あそびはとりどり かごのにぎわひ)』という浮世絵。遊女屋での様子を描いた1枚ですが、なんと登場人物に鳥人が混じっているという、遊び心たっぷりな内容になっています。
関連リンク:
鳥人たちの喧嘩を観戦してみた|太田記念美術館
こちらは吉原遊郭が舞台となっていますが、江戸四宿をはじめとする各宿場にも「岡場所」と呼ばれる私娼街があったそうです。(『藁人形』の舞台である若松屋も岡場所の中の1店舗。)幕府の公認であった吉原に対し岡場所はグレーな存在でしたが、経済循環の観点から目を瞑られていたんだとか…。
そんな背景を踏まえつつ、次は品川宿のとある遊女屋が舞台の落語へと続いていきます。
思わず翻弄されてしまう、噺家の手腕
今度の舞台転換では本屋しゃんがピアノに座り、待ち時間を彩ります。
▲ピアノを弾く本屋しゃん。世代を越えて愛される『となりのトトロ』を演奏。
再度あお馬さんが登場し、品川宿の遊女屋が舞台の『居残り佐平次』のはじまりです。
居残り佐平次
パーっと遊びに行こう!と3人の友人を誘う佐平次。どんなに遊んでも5円の割り前で良いと佐平次が言うので、友人たちも誘いに乗り4人で品川の大見世にあがることに。酒に料理に芸者…とかなり豪勢に遊び尽くす。
お引けの時間になり「さすがに5円じゃ収まらないだろう」と友人達が言うが、それでも佐平次は5円の割り前で良いと言う。「じゃあお言葉に甘えて…」と15円を出す友人達に佐平次は煙草入れを渡し、そこの質屋で5円にしてもらい、合わせて20円を自分の母親に渡してくれと言う。それじゃ支払いはどうするんだと聞くと、勘定は払えないから自分は店に居残るのだと言う。どんな責苦にあうか分からんぞと止められるが佐平次は友人達を帰してしまう。
夜が明け、店の若い衆が1人残った佐平次を起こしにくるが…。
この佐平次という男、それはもう口が達者!ああ言えばこう言うで巧みに相手をかわしていきますが、愛嬌抜群でなんとも憎めないキャラクターです。彼の調子の良い話と大笑いには何度もつられて笑ってしまいました。観客も佐平次というキャラクターに翻弄される楽しい噺ですが、それは落語家さんの技術があるからこそなんでしょうね。
▲イベント終了後のTRiPメンバー。
左から渡邉さん、本屋しゃんさん、あお馬さん
おわりに
いかがでしたでしょうか?
千住宿開宿400年を記念して行われたTRiP第6回は落語や浮世絵が好きな方はもちろん、千住や足立区にゆかりのある方も大いに楽しめる3時間でした!
自分が知っている場所の噺や絵は愛着が湧きますし、なによりその場所の知らなかった一面が見えたりしてとても刺激になりました。
これから落語や浮世絵を知っていきたいという方にも、自分にゆかりのある場所から入ると面白さを感じやすくてオススメかもしれません。
また今回は前回以上に落語と浮世絵噺がお互いに補完するような構成だったので、本当にどっぷりと「江戸時代の宿場町」にトリップしたかのような没入感があり楽しかったです!
ご興味のある方はぜひ今後のシリーズもチェックしてみてくださいね。
最後までお読みいただきありがとうございました!